ベルリンの壁の崩壊30周年

Image credits: Poetic Kinetics on Instagram

今年はベルリンの壁の崩壊30周年です。
30年前の11月9日に、東西を分ける悪名高きあの壁が崩壊しました。


そう言われてもピンと来ないであろう世代の方が多くなってしまったのかもしれませんが、私が学生の頃は、ドイツという国は、東ドイツと西ドイツに別れていたのです(遠い目。。)。

ベルリンの壁とは、ベルリンの街を真っ二つに分けていた長い壁のことです。東ベルリン(東ドイツ)と西ベルリン(西ドイツ)は同じ街でありながら2つのまったく違う国となり、一般市民が行き来することができなくなりました。

東ドイツは当時のソ連の占領下に置かれている共産主義の国でした。国外脱出者が増えたために壁が作られ、壁を越えて西へ脱出を試みる者はその場で射殺されました。

私は19歳のとき、壁が存在する東ベルリンの街で、ひと夏を過ごしたことがあります。秘密警察に監視され続けているという恐ろしい国でありながら、ブランブルグ門周辺の街並みは昔の面影をそのまま残し、それは美しい光景でした。トラバントと呼ばれる小さなクルマが、排気ガスと騒音をまき散らしながら行き来していました。

バブルで盛り上がっていたあの頃の東京とはまるで別世界です。街を歩いていても、華々しい広告を目にすることもないし、ショッピングを楽しむこともできません。

壁崩壊からちょうど30年後にあたる今月9日、記念日を祝うイベントとして、12万本ものリボンがブランデンブルグ門の前に展示されました。ドイツの東西統一を象徴するアートで、その1/4にあたる紙には願いやメッセージが手書きされているとのことです。






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あのときベルリンで見たり感じたことを思いだしながら書いてみた短い小説をキンドル化しました。アンリミテット会員は無料で読めますので、よろしければぜひ。


 

ちなみに表紙のこのクマは、東ベルリンのお店で私が記念に購入した大きなぬいぐるみです。西側諸国から見たら考えられないほど毛質は悪いのですが、とても愛らしい顔をしていました。雑貨屋のような店の中で、私はこのクマを買うために、東ドイツの人たちが作る列に並んだのですが、品不足の国で買い物することをちょっと申し訳なく感じました。

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二コラはエンジンを切り、私たちは壁を見た。答えは分かっていたけれど、これもベルリンの壁なのかどうか私は聞かずにはいられなかった。なんてことない、ただの白い壁に見えた。それほど高くないし、ひっそりとしたこんな真夜中によじ登れば、どうにか越えられそうに見えた。

「この壁は一夜にしてつくられたんだ」

 二コラは低い声で言った。

「もっとも、最初は質素な有刺鉄線が張られただけで、飛び越えることだってできたかもしれない。東西の国境に建っているこうしたアパートなどは西側に向いている窓やドアに煉瓦やコンクリートを埋め込まれた。あまりに急だったから、作業が始まると同時に窓から飛び降りて西側に脱出する国民も多くいた。誰もが助かったわけではないよ。たまたま西ドイツに行っていた者は東側に戻ってくることができなくなった。逆もまた然りだ。

 それに、よく見てごらんよ。壁の向こうの街灯は遠いだろう。この壁の向こうは西ベルリンではないんだ。
 壁一枚をどうにか越えたとしても、すぐにまた、有刺鉄線のフェンスが延々と続いている。血だらけになりながらそれをよじ登ろうとしたところで、有刺鉄線には電流が流れている。触れるやいなやアラームが発せられ、警察犬が走って来て足を食いちぎられるだろう。場所によっては自動銃も取りつけてある。

街灯が点々と並び、見張り台は数百メートルごとに設けられて警備兵が二十四時間体制で機関銃を持って見張る台が一直線に並んでいるんだ。隠れ場所なんてない。地面の砂は定期的に整えられ、足跡が見つけられるようにしてある。そして最後にもう一枚の壁がある。特殊な加工が施されていて素手でよじ登ることはできない。死の地帯と呼ばれるだけあって、生き延びることは不可能となる」

 日本という国で何不自由なく育てられてきた私にはまったく想像がつかない話であった。肉体がまさにこの場にいるというのに、とても実感できずにいる。
 あれこれ妄想するうちに自分の抱える孤独感など取るに足らない問題に思え、アガタと二コラの関係だってどうでもよいことのように思えてきた。真相の分からない現実など幻想なのであって、それに囚われると厭世的な世界で迷子になるだけだ。
 私は、すべての人々の自由と幸せを心から願った。今この瞬間にすべきことは、それ以外に何もないような思いがした。

『壁の中のアガタ』より

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