愛する気持ちがもたらしてくれたもの



彼女の最愛の夫は、約束したとおり、ちゃんと自分が天使になって彼女を幸せに導いた。別に、彼の力ではなかったのかもしれない。でも、彼女は守られていた。悪いことなど起きないのだ。




今日、仕事で出会った女性が、素敵な話をしてくれたので、ここでシェアしたいと思う。

彼女は60歳くらい。ノーメークに明るい色合いの服をきて、とても柔らかな物腰だった。人の好さが滲み出ているような優しいしゃべり方をする。

これが終わったらボーイフレンドとランチに行く、と楽しそうに笑う。

私は、もっと彼らのことを知りたくなった。

高齢者の恋愛はちっとも珍しいことではないが、恋愛を楽しむタイプの女性には全然見えなかったから興味を持ってしまったのだ。

どれくらいつきあってるの?と聞いたら、3年くらい。でも知り合ってから20年近くになる、と言う。

いつもながら、初対面にもかかわらずもっと詳細を聞きたくなってしまってじりじりしてしていると、それを察した彼女は、こんなふうに話してくれた。

彼女には、最愛の夫がいた。

夫はバイク事故で下半身不随になり、車椅子の生活を強いられていた。そして、晩年は病に侵されていた。彼女はずっとそばにいて世話を続けた。

君は僕のエンジェルだ、と彼は感謝しながら言い続けていたそうだ。

ほんとうに、いつも、ありがとう。僕は何もしてあげることができないけれど、僕が死んだら、今度は僕がエンジェルになって、君を守る。絶対に!

彼らは30年前にフロリダに越してきた。

この土地には、家族も友達も誰もいない。彼らには子供がいない。幸いにして色々な友達はできたけれど、身寄りがないまま独りぼっちになってしまう彼女のことを、彼はものすごく心配していた。でも、自分は何もしてあげられない。

辛い気持ちを抱えたまま、彼は、数年前に病死した。

私はその時点でもう涙目になってしまった。寂しい話を聞くのがとても苦手なのだ。しかも、自分の姿に重なりそうで怖かった。それに、たとえ誰かがそばにいても、底抜けの孤独に落ちてゆく感覚はよくわかる。

彼らには、たくさんの顔見知りや友達がいた。ジョンとバーバラという夫婦は親友と呼べる仲ではなかったけれど、ほどほどに気持ちよくつきあっていた。

彼女とバーバラとは気が合ったし、ジョンが愛妻家で奥さんを大切にしていたことも知っていた。夫婦どうしの友達は15年ほど続いていた。

夫が亡くなった3日後に、ジョンの奥さんのバーバラも同じ病気でとうとう息をひきとってしまった。

彼女とジョンは、愛する伴侶を失った者同士、なんとなく連絡を取り合ってときどき食事に行くようになった。彼女の亡くなった夫の名前もジョンであるから、ちょっと慰められたのかもしれない。

彼女はバーバラのことが好きだったので、ジョンの辛さも深く理解できた。それは決してデートではなかったけれど、一緒にいることで前向きな気持ちにもなれるのだった。

なんとなく波長もあう。会話をしながら、いろいろな共通点があることを発見しはじめた。

しばらくしてから、彼女は、女友達と旅行に行った。

ホテルのロビーをぶらぶらと歩いていると、美しいアジア人の女性が彼女を見てびっくりしたような顔をした。あまりにじーっと見つめるものだから戸惑っていると、その女性はそんなふうに言ってきた。

じっと見すぎてごめんなさい。でも、あなたがあんまりにも強いオーラを放っているものだから。あなたは、最近、旦那さんを亡くしましたね?

彼女はびっくりして、頷いた。もっと話を聞きたくなった。すると、その女性は言った。

私は霊能者なんです。色々見えてしまったものだから、どうしても、あなたに伝えたくて。あなたの亡くなった旦那さんが、あなたの次の旦那さんとなる人を導いてくれていますよ。その人は、彼があなたに与えることのできなかったものを、与えてくれる人でしょう。

彼女はびっくりしたけれど、自分が知っている男友達は、故バーバラの夫だったジョンしかいない。

戻ってからジョンに話すと、大笑いされた。

でも、それがきっかけで、2人はつきあうようになった。それから、ごく自然にパートナーシップを築きはじめたそうだ。

一緒に住んでいるのかどうかは、分からない。どうして3年間も恋人のままで結婚という形をしないのかも。もっと時間があったら、きっと色々話してくれたと思う。でも彼女の興味は私の方に移ってしまったので、私が自分の人生について語ることになってしまった。ほんの短い、世間ばなし程度ではあるけれど。

私は、会話のあとで、彼女の笑顔を見て、とても癒されてしまった。

最愛の夫が死んでしまったときの辛さは想像に絶する。どんなに孤独だったことだろう。友達や家族がいてもいなくても、寂しいときは寂しいのだ。それは、だれにも救うことができない。

彼女のタイプからして、デートを重ねたり、恋愛を楽しんだり、出会いに積極的になることはないだろうから、年齢的にも、これからたった一人で生きていくのだと、絶望したのではないだろうか。

だけど、彼女の最愛の夫は、約束したとおり、ちゃんと自分が天使になって彼女を幸せに導いた。別に、彼の力ではなかったのかもしれない。でも、彼女は守られていた。悪いことなど起きないのだ。

彼女の話の中には、神様だとか、宇宙だとか、そうした言葉は一切に出てこなかったので、彼女が何を心のよりどころにしていたのか分からないけれど、私は、それは、大きな愛だと思う。

目の前の人を精一杯に、まっすぐ、疑いも不安もなく愛したのだ。そして、夫の言葉を疑わずに信じた。だから、ちゃんと、道は開けていった。

悩んだり、迷ったり、疑ったりすると、自分で道をふさいでしまう。そんなことを、改めて教えてくれた、とても素敵な女性だった。

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